農業者の方から、よく聞かれる質問があります。

「従業員に残業してもらうなら、農業でも36協定が必要ですか?」

一般の会社では、法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日に働かせたりする場合、36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。

しかし、農業に従事する労働者については、原則として一般の会社と扱いが異なります。

労働基準法第41条により、一定の農業従事者には、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されないためです。

結論:農業に従事する労働者は36協定が原則不要です

労働基準法第41条では、農業や畜産など一定の事業に従事する労働者について、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用しないとしています。

36協定は、本来、法定労働時間や法定休日の規制を超えて働かせるための協定です。

そのため、これらの規定自体が適用除外となる農業従事者については、その適用除外となる時間外・休日労働について36協定は原則として必要ありません。

例えば、農繁期に1日8時間を超えて作業をしてもらう場合や、通常の会社でいう法定休日に作業してもらう場合でも、労働基準法第41条の対象となる農業従事者であれば、一般の会社のように36協定を根拠として働かせる仕組みではありません。

「農業法人なら全部不要」ではありません

「会社名に農業法人と付いているから、すべての従業員について36協定が不要」という意味ではありません。

第41条が問題になるのは、対象となる農業等の事業に従事する労働者です。農産物の生産だけでなく、加工、製造、販売、飲食、観光などを別の事業として行っている場合には、事業内容や事業場の実態によって扱いを確認する必要があります。

残業代(割増賃金)はどうなる?

第41条の対象となる農業従事者には、法定労働時間・法定休日の規定が適用されないため、法定時間外労働や法定休日労働を理由とする割増賃金の規定も原則として適用されません。

一方、深夜(原則として午後10時から午前5時)の割増賃金は適用されます。

つまり、農業について「1日8時間を超えたから自動的に25%増し」「法定休日に働いたから自動的に35%増し」という一般企業と同じ考え方にはなりませんが、深夜に働かせた場合の深夜割増は必要です。

ただし、雇用契約書や就業規則で「所定労働時間を超えた場合は割増賃金を支払う」などと定めている場合には、その定めに従う必要があります。

また、最低賃金は農業にも適用されます。 第41条の適用除外と最低賃金は別の問題です。

年次有給休暇も適用されます

年次有給休暇も適用除外ではありません。

農業従事者であっても、雇入れから6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤するなどの要件を満たせば、年次有給休暇が発生します。

年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者については、会社が年5日を取得させる義務もあります。

  • 労働時間・休憩・休日 → 原則として適用除外
  • 法定時間外・法定休日の割増賃金 → 原則として適用除外
  • 深夜割増 → 適用あり
  • 年次有給休暇 → 適用あり
  • 最低賃金 → 適用あり

技能実習生は「農業だから同じ」で済ませない

農業分野で外国人技能実習生を受け入れている場合は、もう一段注意が必要です。

技能実習生も、実習実施者と雇用契約を結んで働く段階では労働者です。そのため、労働基準法をはじめとする労働関係法令が適用されます。

法律上は、農業に従事する技能実習生についても、一般の農業従事者と同じく、労働基準法第41条による労働時間・休憩・休日の適用除外の対象です。

しかし、技能実習制度の運用では、農業分野の技能実習生についても、労働時間・休憩・休日は労働基準法の基準に準拠して管理することとされています。

厚生労働省のQ&Aでも、農業に従事する技能実習生については労働基準法第41条により労働時間・休憩・休日の規定は適用されない一方、農林水産省の通達により、これらについて労働基準法の基準に準拠することが求められていると説明されています。

  • 原則1日8時間・週40時間を基準に労働時間を管理する
  • 6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は60分の休憩を基準にする
  • 休日についても労働基準法の基準に準拠する
  • 時間外・休日労働をさせる場合は、技能実習制度上の取扱い、雇用契約、技能実習計画との整合を確認する
  • 契約上支払うこととしている時間外・休日割増賃金は適切に支払う

「農業は第41条だから、技能実習生も労働時間は自由に設定できる」と考えるのは危険です。

36協定が不要でも、何時間働かせてもよいわけではありません

一般の農業従事者について36協定が原則不要だからといって、長時間労働を無制限にさせてよいという意味ではありません。

長時間労働が続けば、疲労の蓄積や農作業事故のリスクが高まります。雇用契約書や就業規則で始業・終業時刻、休日などを定めている場合は、その内容との整合も必要です。

林業は農業と同じではありません

現在の労働基準法第41条第1号は、対象となる事業について「林業を除く」と明記しています。

林業は、第41条第1号による適用除外の対象外です。

農業者が確認したい5つのポイント

1.本当に第41条の対象となる農業か

事業内容や労働者の仕事の内容を確認します。加工・販売など別の事業を行っている場合は特に注意が必要です。

2.割増賃金の扱いを正しく区別しているか

法定時間外・法定休日の割増と、深夜割増は扱いが違います。雇用契約や就業規則の定めも確認してください。

3.年次有給休暇を管理しているか

農業でも年休制度は適用されます。付与日数、取得状況、年5日の取得義務を確認してください。

4.技能実習生を一般の農業従事者と同じ扱いにしていないか

技能実習生については、農業分野でも労働基準法の基準に準拠した労働時間・休憩・休日の管理が求められます。

5.長時間労働を放置していないか

法定労働時間の適用除外であっても、健康管理や事故防止の観点から勤務実態を把握しておく必要があります。

一般企業の36協定との違いも確認しておきましょう

一般の会社では、法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日に働かせたりする場合には36協定が必要です。

農業の労務管理で判断に迷ったらご相談ください

農業では、一般企業とは異なる労働基準法上の取扱いがあります。一方で、年次有給休暇、深夜割増、最低賃金、労働条件の明示、健康診断、安全衛生、労災保険など、通常どおり対応が必要な制度もあります。

技能実習生については、さらに制度上の運用基準にも注意が必要です。

自社の働かせ方がどのルールに当てはまるのか、分からない場合は専門家へ確認してください。

参考資料