
これまで、常時5人未満の従業員を雇う個人経営の農家には、労災保険への加入が原則として任意となる仕組みがありました。この取扱いが、2026年7月に公布された法律の改正によって廃止されます。
改正後は、農家の規模が小さくても、労働者を雇用している事業は原則として労災保険の適用事業になります。ただし、この見直しはまだ施行されていません。施行日は政令で定めることになっており、厚生労働省は2031年(令和13年)4月1日とする方針を示しています(2026年9月29日に労働政策審議会が答申)。今すぐ新しい加入義務が発生するわけではありません。
いつから何が変わり、農家の経営者や家族、従業員にどう関係するのかを整理します。
何が変わる?「暫定任意適用」が廃止に
労災保険は、従業員が仕事中や通勤中の事故などで負傷・疾病・障害・死亡した場合に給付を行う国の制度です。原則として、労働者を使用する事業に適用されます。
一方、農林水産業の一部には、これまで「暫定任意適用事業」という例外が認められていました。農業では、個人経営で常時5人未満の労働者を使用する事業が基本的な対象です。ただし、従前から強制適用となる例外があります。
2026年7月17日に公布された「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第60号)は、この暫定措置を廃止することとしました。
| 経営の形態 | 現行の取扱い | 今回の改正後 |
|---|---|---|
| 法人経営の農業 | 従業員を雇う場合は原則として強制適用 | 基本的に変更なし |
| 個人経営・常時5人以上 | 原則として強制適用 | 基本的に変更なし |
| 個人経営・常時5人未満 | 一定の例外を除き暫定任意適用 | 従業員を雇う事業は原則として強制適用 |
注意:「従業員5人未満なら、現在は必ず任意」というわけではありません。事業主が農業について特別加入している事業や、一定の危険・有害な業務を主として行う事業などは、従来から強制適用の対象となる場合があります。
いつから義務化される?2031年4月1日の予定です
改正法の公布日は2026年7月17日です。しかし、農林水産業の暫定任意適用事業を廃止する部分については、公布の日から起算して5年以内に、政令で施行日を定める仕組みになっています。
この施行日について、厚生労働省は、円滑な施行に必要な準備期間を設けるため2031年(令和13年)4月1日とする方針を示し、2026年9月29日に労働政策審議会が関係政令案について妥当と答申しました。政令の公布状況により正式な確定状況が変わるため、最新の行政発表を確認する必要があります。
改正法の別の項目(遺族補償年金の見直しなど)は2027年4月1日に施行されますが、小規模農家の適用拡大は施行時期が異なります。「来年4月から義務化」と誤解しないようご注意ください。
施行までの約4年半の間に、現在の適用関係を確認し、必要な準備を進めることが大切です。
農業者本人の「特別加入」まで義務化されるの?
今回の義務化は、雇用される労働者を保護する一般の労災保険の適用拡大です。個人農家の事業主本人や、労働者に当たらない家族従事者について、特別加入を一律に義務化するものではありません。
- 一般の労災保険:雇用されて働く従業員を対象とする制度。保険料は原則として全額事業主が負担します。
- 特別加入:本来は労災保険の対象とならない農業者本人などが、一定の要件の下で任意に加入できる制度です。
たとえば、家族だけで農業を営み、労働者を一人も雇っていない場合には、従業員のための一般労災保険の適用という問題は通常生じません。ただし、家族が労働者に該当するかどうかは、実際の働き方や雇用関係によって判断する必要があります。
詳しくは当センターの雇用農家向け労災保険・雇用保険および農業労災事務センターのトップページをご確認ください。
パート・アルバイトを雇う農家はどうなる?
施行後は、正社員がいない個人農家でも、パートや短期間のアルバイトなど、労働者を雇って事業を行っていれば、原則として労災保険の対象となります。労災保険は、雇用保険のように週の所定労働時間などで被保険者を区分する制度ではありません。
ただし、手伝いに来てもらった人が「労働者」なのか、独立した請負事業者なのか、家族従事者なのかは、契約書の呼び方だけでなく実態に即して確認する必要があります。
また、今回の改正は労災保険の適用拡大であり、雇用保険の暫定任意適用は今回の改正の対象ではありません。労災保険と雇用保険は分けて判断してください。
施行を待たずに確認しておきたい4つのこと
1.今の事業が任意適用なのか、すでに強制適用なのか
個人経営か法人経営か、雇用している人数、事業主の農業特別加入の状況、危険・有害作業の実態などを整理しましょう。「5人未満だから加入不要」と思い込まないことが重要です。
2.誰を労働者として雇っているか
常勤・パート・収穫期だけのアルバイトも含め、雇用している人を確認します。出勤状況や賃金支払いの記録を整理しておくと、加入手続きや保険料の申告に役立ちます。
3.必要な手続きと保険料負担を把握する
適用事業となれば、原則として労働保険の保険関係成立などの手続きが必要です。労災保険料は労働者に支払う賃金総額などを基に算定し、事業主が負担します。具体的な施行時の手続きや取扱いは、今後の行政からの案内を確認してください。
4.義務化を待たずに任意加入も検討する
施行までの間、現行制度上は暫定任意適用となる農家もあります。しかし、農作業中の事故は施行日まで待ってくれません。現在、任意加入ができる事業であれば、従業員の保護のために早めの加入を検討する意義があります。なお、暫定任意適用事業であっても、雇っている労働者の過半数が加入を希望したときは、事業主は加入の申請をしなければなりません(昭和44年法律第85号第5条第2項)。
まとめ:従業員を守る備えを、今から
2026年の法改正で、農林水産業の労災保険に残っていた暫定任意適用制度は廃止されることになりました。小規模な個人経営の農家も、従業員を雇っている場合には、施行後は原則として労災保険の適用事業となります。
大切なのは、義務化は2031年4月1日施行の予定で、まだ始まっていないことと、従業員の一般労災保険と事業主本人の特別加入は別制度であることです。まずは現在の加入状況を確かめ、農作業中の事故に備えましょう。
農業労災事務センターでは、農業の労災保険・特別加入に関するご相談を受け付けています。





